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貴方の会社の戦略は大丈夫ですか?

国際委員会 北米印刷事情レポートより

2018年11月9日企業・経営スペシャリスト

一般社団法人PODi

一般社団法人PODi

1996年に米国で誕生した世界最大のデジタル印刷推進団体。印刷会社800社、ベンダー50社以上が参加し、デジタル印刷を活用した成功事例をはじめ、多くの情報を会員向けに公開している。また、WhatTheyThinkをはじめDMAなどの海外の団体と提携し、その主要なニュースを日本語版で配信している。

http://www.podi.or.jp

 印刷業界には、長年引き継がれてきた「仮説の常識」というものがある。根強く残るのが「印刷業界はGDPに連動していくだろう」といったもの。この「仮説の常識」は、もはや通用しない。マクロ経済の指標より技術の動向を重要な指標として捉えるべきだろう。もうひとつは「デジタルメディアの衝撃はいずれ和らいでいくか、終わるだろう」といったもの。これも誤りだ。ムーアの法則はさておき、技術革新はますます安価で便利になっていき、その勢いは留まることを知らない。誤った仮説は間違った戦略につながる。目の前にビジネスチャンスがあるにも関わらず、それを見逃してしまったり、あらゆる事象への対応が後手となってしまう。あなたの会社の経営戦略は、本当に大丈夫だろうか。


 一般論として、2017年9月にシカゴで開催された「Print17」は思ったより良かったと言われている。それは、デジタルプリント、ワークフロー、デジタルアプトプットにつなげる製本や仕上げ機に携わっていればの話だ。多くの場合、ひとつのブースに行けば、それらを全て見ることができてしまう。一般論には、必ず例外があるものだ。

 それでは、一般論として片付けられない話は何であろうか。業界は常に変わっていて、今後も変わっていくであろうというものだ。こちらの方は、例外というものがない。ただ、この話にはひとひねりがある。新しい事業に投資して成功しているのは大手印刷会社ではなく、中堅・中小印刷会社であることだ。印刷業界へ設備を売るベンダーは、これまで中堅や中小印刷会社への販売で苦戦してきた。従業員100人以下の印刷会社は、与信で引っかかってしまうことが多いからだ。それでも売上を立てないといけないので、金銭的なリスクを背負うことになる。だから、コピー機のようなクリックチャージが数十年前に考案されたのだ。中小印刷会社でも投資リスクをサプライヤに背負わせることにより、新しい設備を導入しやすいスキームであった。このスキームは両者にとってメリットをもたらした。印刷会社は、導入リスクを低くするかわりに、クリックチャージを払うことによって、儲けを削る一方、ベンダーはより多くの設備を売ることができるようになったのである。

 いま印刷業界は、ますます付加価値の高い特殊印刷へシフトしている。そこには、大ロットという言葉は存在しない。例えば、今日のDM印刷会社が提供する価値というものは、データ管理や郵便料金の低減などで、大量生産ではない。仕事が小ロットになるということは、売上と粗利益を維持するために、より多くの件数をこなさないといけないことを意味する。だから、必然的に印刷会社は、事業領域を狭い特殊印刷に絞り込み、数少ない生産拠点で小ロットの仕事を集約させていく。

 これは、印刷事業の集約化や統合につながる。印刷事業を健全なものにしていくには欠かせない戦略といえよう。ただ、借金をしてまでも取る戦略ではない。昔から続いてきた確かな信頼を軸とした印刷サービスを提供するという王道の経営戦略は薄れつつあり、それを他の戦略に形を変えたりしようとする驚きの試みがいくつか見受けられる。つい最近までの印刷会社は、事業の後継者を探すことで苦労していた。最近は、効率化された生産設備にいかに多くの仕事を流し込むか、または、苦戦している状況から救ってくれるパートナーといかに統合するかなどが経営戦略になりつつある。

現実的な現状分析で、間違った戦略を絶とう

 ビジネススクールに行くと必ず経営戦略を学ぶ授業を受けないといけない。そこで勉強することは「現状分析」だ。「現状分析」とはいったい何であろうか。事業環境、直接的間接的に関わる競合、サプライヤ、経済状況などをレビューすることだ。最近の流行りの言葉を使うと、事業をとりまく「エコシステム」を把握することである。授業では、まず仮説をたてて、それが本当か否かを検証すべきと教わる。印刷業界で最も共有されている仮説は「印刷の出荷は経済動向と連動していく」といったもの。この仮説は、残念ながらすでに20年前に死んでいる。しかし、データが何を示そうと、印刷業界はこの仮説を捨てようとしない。

 以下のチャートを見ていただきたい。青い線がGDPの年間成長率である。そして赤の線が印刷業界の出荷成長率だ。印刷業界の出荷成長率がGDPを上回ったのは、1994年〜1995年の1回だけ。このときはインタネットが大衆化した年である。直近のデータを見て欲しい。急速に減速しているのがわかるだろう。


 印刷市場規模がGDPと連動するといった「仮説の常識」が今でも通じるようであるなら、1990年代にGDPに対して約1.25%であった印刷業界の規模が、現在の0.5%まで縮小するはずがない。

 2016年末から、印刷業界の状況、急速に悪化している。2月〜7月の6ヵ月間をみてみると、なんと7.5%減である。これは、物価調整をしていない数字だ。調整すると9%減になってしまう。

 デジタルメディアへのシフトの波は次々と押し寄せてきて止まらない。私は今回の波を「第三の波」と呼ぶ。メディアシフトは、通信料金の低下と、デバイスのスピードの向上に起因する。スマホはもはや電話ではない。その情報処理能力の向上は日進月歩だ。以下は、Magna Globalが発表した、米国の広告支出の推移である。



 上記表の中のオフライン広告で伸びているのは、P&Oを省くと、野外広告と映画予告のみ。デジタル広告については、パソコンが鈍化しているが、年間累積成長率は総じて9.5%と強い。雑誌や新聞を含む印刷広告の累積成長率は17%減。念のために言うがこの2桁の数字の間には小数点がない。

 印刷の減少は、2016年の秋から加速している。もはや、手の内には「平常」といったカードはない。ただ、差別化に苦戦している大手印刷会社がいる一方、事業を特殊印刷に絞り込んで良い業績をあげている中小印刷会社がいることも事実だ。大手は、従来型の印刷物を取り扱うことが多い。これらの印刷物は、コンテンツマーケティングやメディアの多様化により減少傾向にある。印刷物がデジタルに奪われていく流れは、間違いなく今後も続くだろう。雪だるま式に印刷業界に衝撃が襲ってくることはほぼ間違いない。

 いまワイドフォーマットが注目されているが、それを取り扱っている印刷会社の戦略をどう考えるべきだろうか。ワイドフォーマットがとうなっていくのかを予測するには、デジタルサイネージの市場で何がおきているかを把握しなくてはならない。ワイドフォーマットはいずれデジタルサイネージに取って変わっていくからだ。ワイドフォーマットを扱っているあるミネアポリスの印刷会社は、デジタルサイネージを主要な事業として成長させた。この事業に参入するには、ビデオやプログラミングなど新たな技術に投資したり、それを提供するパートナー会社と組むことが重要であろう。新しいデジタル事業に取り組むことは、従来の印刷物を成長させ、また安定させる副次効果にもつながる。このことは、多くの印刷会社が体感しているという。新しい製品やサービスに磨きをかけることによって、クライアントにより深く入り込むことができ、それが従来型の印刷物の受注につながっていくからだ。多くのクライアントはマルチチャンネル戦略にまつわるプロジェクトを推進している。印刷会社がそのプロジェクトを受注するには、複数のチャネルをシームレスに連動、管理、遂行できる技能を修得することが不可欠といえよう。

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1996年に米国で誕生した世界最大のデジタル印刷推進団体。印刷会社800社、ベンダー50社以上が参加し、デジタル印刷を活用した成功事例をはじめ、多くの情報を会員向けに公開している。また、WhatTheyThinkをはじめDMAなどの海外の団体と提携し、その主要なニュースを日本語版で配信している。

http://www.podi.or.jp

 印刷業界には、長年引き継がれてきた「仮説の常識」というものがある。根強く残るのが「印刷業界はGDPに連動していくだろう」といったもの。この「仮説の常識」は、もはや通用しない。マクロ経済の指標より技術の動向を重要な指標として捉えるべきだろう。もうひとつは「デジタルメディアの衝撃はいずれ和らいでいくか、終わるだろう」といったもの。これも誤りだ。ムーアの法則はさておき、技術革新はますます安価で便利になっていき、その勢いは留まることを知らない。誤った仮説は間違った戦略につながる。目の前にビジネスチャンスがあるにも関わらず、それを見逃してしまったり、あらゆる事象への対応が後手となってしまう。あなたの会社の経営戦略は、本当に大丈夫だろうか。


 一般論として、2017年9月にシカゴで開催された「Print17」は思ったより良かったと言われている。それは、デジタルプリント、ワークフロー、デジタルアプトプットにつなげる製本や仕上げ機に携わっていればの話だ。多くの場合、ひとつのブースに行けば、それらを全て見ることができてしまう。一般論には、必ず例外があるものだ。

 それでは、一般論として片付けられない話は何であろうか。業界は常に変わっていて、今後も変わっていくであろうというものだ。こちらの方は、例外というものがない。ただ、この話にはひとひねりがある。新しい事業に投資して成功しているのは大手印刷会社ではなく、中堅・中小印刷会社であることだ。印刷業界へ設備を売るベンダーは、これまで中堅や中小印刷会社への販売で苦戦してきた。従業員100人以下の印刷会社は、与信で引っかかってしまうことが多いからだ。それでも売上を立てないといけないので、金銭的なリスクを背負うことになる。だから、コピー機のようなクリックチャージが数十年前に考案されたのだ。中小印刷会社でも投資リスクをサプライヤに背負わせることにより、新しい設備を導入しやすいスキームであった。このスキームは両者にとってメリットをもたらした。印刷会社は、導入リスクを低くするかわりに、クリックチャージを払うことによって、儲けを削る一方、ベンダーはより多くの設備を売ることができるようになったのである。

 いま印刷業界は、ますます付加価値の高い特殊印刷へシフトしている。そこには、大ロットという言葉は存在しない。例えば、今日のDM印刷会社が提供する価値というものは、データ管理や郵便料金の低減などで、大量生産ではない。仕事が小ロットになるということは、売上と粗利益を維持するために、より多くの件数をこなさないといけないことを意味する。だから、必然的に印刷会社は、事業領域を狭い特殊印刷に絞り込み、数少ない生産拠点で小ロットの仕事を集約させていく。

 これは、印刷事業の集約化や統合につながる。印刷事業を健全なものにしていくには欠かせない戦略といえよう。ただ、借金をしてまでも取る戦略ではない。昔から続いてきた確かな信頼を軸とした印刷サービスを提供するという王道の経営戦略は薄れつつあり、それを他の戦略に形を変えたりしようとする驚きの試みがいくつか見受けられる。つい最近までの印刷会社は、事業の後継者を探すことで苦労していた。最近は、効率化された生産設備にいかに多くの仕事を流し込むか、または、苦戦している状況から救ってくれるパートナーといかに統合するかなどが経営戦略になりつつある。

現実的な現状分析で、間違った戦略を絶とう

 ビジネススクールに行くと必ず経営戦略を学ぶ授業を受けないといけない。そこで勉強することは「現状分析」だ。「現状分析」とはいったい何であろうか。事業環境、直接的間接的に関わる競合、サプライヤ、経済状況などをレビューすることだ。最近の流行りの言葉を使うと、事業をとりまく「エコシステム」を把握することである。授業では、まず仮説をたてて、それが本当か否かを検証すべきと教わる。印刷業界で最も共有されている仮説は「印刷の出荷は経済動向と連動していく」といったもの。この仮説は、残念ながらすでに20年前に死んでいる。しかし、データが何を示そうと、印刷業界はこの仮説を捨てようとしない。

 以下のチャートを見ていただきたい。青い線がGDPの年間成長率である。そして赤の線が印刷業界の出荷成長率だ。印刷業界の出荷成長率がGDPを上回ったのは、1994年〜1995年の1回だけ。このときはインタネットが大衆化した年である。直近のデータを見て欲しい。急速に減速しているのがわかるだろう。


 印刷市場規模がGDPと連動するといった「仮説の常識」が今でも通じるようであるなら、1990年代にGDPに対して約1.25%であった印刷業界の規模が、現在の0.5%まで縮小するはずがない。

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 デジタルメディアへのシフトの波は次々と押し寄せてきて止まらない。私は今回の波を「第三の波」と呼ぶ。メディアシフトは、通信料金の低下と、デバイスのスピードの向上に起因する。スマホはもはや電話ではない。その情報処理能力の向上は日進月歩だ。以下は、Magna Globalが発表した、米国の広告支出の推移である。



 上記表の中のオフライン広告で伸びているのは、P&Oを省くと、野外広告と映画予告のみ。デジタル広告については、パソコンが鈍化しているが、年間累積成長率は総じて9.5%と強い。雑誌や新聞を含む印刷広告の累積成長率は17%減。念のために言うがこの2桁の数字の間には小数点がない。

 印刷の減少は、2016年の秋から加速している。もはや、手の内には「平常」といったカードはない。ただ、差別化に苦戦している大手印刷会社がいる一方、事業を特殊印刷に絞り込んで良い業績をあげている中小印刷会社がいることも事実だ。大手は、従来型の印刷物を取り扱うことが多い。これらの印刷物は、コンテンツマーケティングやメディアの多様化により減少傾向にある。印刷物がデジタルに奪われていく流れは、間違いなく今後も続くだろう。雪だるま式に印刷業界に衝撃が襲ってくることはほぼ間違いない。

 いまワイドフォーマットが注目されているが、それを取り扱っている印刷会社の戦略をどう考えるべきだろうか。ワイドフォーマットがとうなっていくのかを予測するには、デジタルサイネージの市場で何がおきているかを把握しなくてはならない。ワイドフォーマットはいずれデジタルサイネージに取って変わっていくからだ。ワイドフォーマットを扱っているあるミネアポリスの印刷会社は、デジタルサイネージを主要な事業として成長させた。この事業に参入するには、ビデオやプログラミングなど新たな技術に投資したり、それを提供するパートナー会社と組むことが重要であろう。新しいデジタル事業に取り組むことは、従来の印刷物を成長させ、また安定させる副次効果にもつながる。このことは、多くの印刷会社が体感しているという。新しい製品やサービスに磨きをかけることによって、クライアントにより深く入り込むことができ、それが従来型の印刷物の受注につながっていくからだ。多くのクライアントはマルチチャンネル戦略にまつわるプロジェクトを推進している。印刷会社がそのプロジェクトを受注するには、複数のチャネルをシームレスに連動、管理、遂行できる技能を修得することが不可欠といえよう。

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