いま一般の小売業が危機に瀕している一方、ネット通販は毎年10%成長していることは誰でも知ることだ。ネット通販により物流関連のパッケージングが伸びていくと思うのは当然だろう。ただ、Smafrit-Stone社が有望市場と思い1998年にパケージング事業に参入して倒産してしまったことをみると、そう簡単に儲かるビジネスではないことがわかる。そのような厳しい市場の中、デジタルプリントを使った小ロットアプリケーションは、新しい領域なので、見込みがあるかもしれない。
ダイレクトマーケティングについては、印刷メディアがますますデジタルメディアに奪われている状況だ。以下のグラフは、米郵便事業の取扱量である。2000年の100を起点として、数値が90に下がると10%減少したことになる。定期刊行物とファーストクラスメールの減少は鮮明だが、スタンダードメールは横ばい。これは一見悪くないように見えるが、米国の人口が起点となる2000年より15%増加しているので、実質的な減少といえよう。郵便取扱量を人口1人当たりでみると2009年からファーストクラスメールは12%減、定期刊行物は32%減、スタンダードメールは18%減となる。
各世帯に郵送されるDMは、中小の商店、不動産屋など地場の事業主にとっては手軽な販促手段だ。 だが、人口や世帯が増加しているにもかかわらず、DMは4年前にピークを迎え、その後は減少傾向にある。DMをやっていれば安泰だとは決して言えないのである。
出版業界の現状は深刻だ。10年以上売上が減少し続けている。書籍を印刷する業者にとっては、自主出版向けのデジタルプリントや小部数のオンデマンドプリントが好調だという。ただ、出版社そのものの売上は減少する一方で回復の望みはない。
雑誌も減少傾向が続いているといえよう。新聞業界は、商業印刷とは別に独自の科目として調査の対象となっているが、この業界の雇用人員数は、1940年代レベルまで落ち込んでいる。つい最近まで儲かっていた非日刊新聞も、近況は芳しくない。
このように、印刷業界全体が環境の変化に適応できていないように思えるのだが、必ずしもそうとはいえない。実は、印刷業界は事業の閉鎖と開業の繰り返しによって刷新されているのだ。その良い事例が1970年代にある。コンピュータを活用したデジタルカラースキャナーが世に登場したときに、カメラを使った分色サービスを提供していた会社は、その技術を真剣に捉えなかった。動揺が起きたのは、カメラベースのサービス会社が次々と閉鎖しはじめてからである。写真タイプのイメージセッターも同じだ。これらの安価なサービスは、最初の頃は個人宅の寝室から提供されるように小規模であったが、大手のライノタイプ(自動活字鋳植機)を使用していた事業者を閉鎖に追い込んだのである。ライノタイプを使用する業者は、同業者がどんどん閉鎖されていくまで、デジタルカラースキャナー同様、写真タイプのイメージセッターを真剣に捉えなかったのだ。
我々の印刷業界の歴史をみると、起業家が新しい技術に勝負をかけて、古い技術を提供する従来の印刷会社を閉鎖に追い込むパターンが繰り返されている。世の中の流れに柔軟に適応していった印刷会社は数少ない。何故こうなるのだろうか。業界全体が安定して成長しているように見えても、データを詳細にみていくと、その水面下では激しい新陳代謝が起きているのがわかる。従来の技術をベースとしたサービスを提供する既存の印刷が変革するには、スイッチングコストがかかるが、新規参入者にはそのコストは発生しない。だから、既存の印刷業者は従来の資産を活かそうとし、変わるのを躊躇してしまい、最後には閉鎖に追い込まれてしまう。
現状では、毎年2,500社の印刷会社が閉鎖され、1,500社が開業している。この閉鎖と開業は、ほとんど業界内の同じ人達が行っているという。古い時代遅れの事業を閉鎖させ、新しいパートナーや投資家と組んで心機一転で開業することが多い。
これらのデータからどのような教訓を学ぶことができるだろうか。印刷業界では、意図的に「破壊と建設」が行われていることだ。印刷会社の経営者としては、このような破壊の犠牲になってはならない。もはや通用しない印刷業界の「仮説の常識」に頼ることを即座にやめることだ。
経営戦略は、現状分析をベースラインとして築き上げるもの。その上で、自分の事業とそれを取り巻く環境の関係を、異なったものに変えなくてはならない。現状を変えようとしない経営戦略は、いくら目標を立てても意味がない。どこから始めるか、その起点を知ることは不可欠だ。最初の一歩がその後に続く各ステップの勢いを決めていくからだ。
市場を見間違うと、その時点で自分の立ち位置が現実の世界と離れてしまう。 そこから歩むステップは間違ったものとなり、正しい方向からどんどん乖離してしまう。
経済と技術がGDPと連動して成長していた時代の印刷事業の経営は容易であった。今日成功している印刷会社のリーダーの経営手腕は1980年代の経営者より格段上だろう。たくさんのドラゴンと戦い、難しい経営判断を毎日しているからだ。時代が良いときは、経営環境が良いので、全ての人が、自分が天才だと錯覚してしまう。 時代が悪いときは、本物の天才になる必要があるのだ。
By:Dr. Joe Webb
Published:2017年9月25日
原文:Are Your Strategic Assumptions Really True?
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一般社団法人PODi
1996年に米国で誕生した世界最大のデジタル印刷推進団体。印刷会社800社、ベンダー50社以上が参加し、デジタル印刷を活用した成功事例をはじめ、多くの情報を会員向けに公開している。また、WhatTheyThinkをはじめDMAなどの海外の団体と提携し、その主要なニュースを日本語版で配信している。
いま一般の小売業が危機に瀕している一方、ネット通販は毎年10%成長していることは誰でも知ることだ。ネット通販により物流関連のパッケージングが伸びていくと思うのは当然だろう。ただ、Smafrit-Stone社が有望市場と思い1998年にパケージング事業に参入して倒産してしまったことをみると、そう簡単に儲かるビジネスではないことがわかる。そのような厳しい市場の中、デジタルプリントを使った小ロットアプリケーションは、新しい領域なので、見込みがあるかもしれない。
ダイレクトマーケティングについては、印刷メディアがますますデジタルメディアに奪われている状況だ。以下のグラフは、米郵便事業の取扱量である。2000年の100を起点として、数値が90に下がると10%減少したことになる。定期刊行物とファーストクラスメールの減少は鮮明だが、スタンダードメールは横ばい。これは一見悪くないように見えるが、米国の人口が起点となる2000年より15%増加しているので、実質的な減少といえよう。郵便取扱量を人口1人当たりでみると2009年からファーストクラスメールは12%減、定期刊行物は32%減、スタンダードメールは18%減となる。
各世帯に郵送されるDMは、中小の商店、不動産屋など地場の事業主にとっては手軽な販促手段だ。 だが、人口や世帯が増加しているにもかかわらず、DMは4年前にピークを迎え、その後は減少傾向にある。DMをやっていれば安泰だとは決して言えないのである。
出版業界の現状は深刻だ。10年以上売上が減少し続けている。書籍を印刷する業者にとっては、自主出版向けのデジタルプリントや小部数のオンデマンドプリントが好調だという。ただ、出版社そのものの売上は減少する一方で回復の望みはない。
雑誌も減少傾向が続いているといえよう。新聞業界は、商業印刷とは別に独自の科目として調査の対象となっているが、この業界の雇用人員数は、1940年代レベルまで落ち込んでいる。つい最近まで儲かっていた非日刊新聞も、近況は芳しくない。
このように、印刷業界全体が環境の変化に適応できていないように思えるのだが、必ずしもそうとはいえない。実は、印刷業界は事業の閉鎖と開業の繰り返しによって刷新されているのだ。その良い事例が1970年代にある。コンピュータを活用したデジタルカラースキャナーが世に登場したときに、カメラを使った分色サービスを提供していた会社は、その技術を真剣に捉えなかった。動揺が起きたのは、カメラベースのサービス会社が次々と閉鎖しはじめてからである。写真タイプのイメージセッターも同じだ。これらの安価なサービスは、最初の頃は個人宅の寝室から提供されるように小規模であったが、大手のライノタイプ(自動活字鋳植機)を使用していた事業者を閉鎖に追い込んだのである。ライノタイプを使用する業者は、同業者がどんどん閉鎖されていくまで、デジタルカラースキャナー同様、写真タイプのイメージセッターを真剣に捉えなかったのだ。
我々の印刷業界の歴史をみると、起業家が新しい技術に勝負をかけて、古い技術を提供する従来の印刷会社を閉鎖に追い込むパターンが繰り返されている。世の中の流れに柔軟に適応していった印刷会社は数少ない。何故こうなるのだろうか。業界全体が安定して成長しているように見えても、データを詳細にみていくと、その水面下では激しい新陳代謝が起きているのがわかる。従来の技術をベースとしたサービスを提供する既存の印刷が変革するには、スイッチングコストがかかるが、新規参入者にはそのコストは発生しない。だから、既存の印刷業者は従来の資産を活かそうとし、変わるのを躊躇してしまい、最後には閉鎖に追い込まれてしまう。
現状では、毎年2,500社の印刷会社が閉鎖され、1,500社が開業している。この閉鎖と開業は、ほとんど業界内の同じ人達が行っているという。古い時代遅れの事業を閉鎖させ、新しいパートナーや投資家と組んで心機一転で開業することが多い。
これらのデータからどのような教訓を学ぶことができるだろうか。印刷業界では、意図的に「破壊と建設」が行われていることだ。印刷会社の経営者としては、このような破壊の犠牲になってはならない。もはや通用しない印刷業界の「仮説の常識」に頼ることを即座にやめることだ。
経営戦略は、現状分析をベースラインとして築き上げるもの。その上で、自分の事業とそれを取り巻く環境の関係を、異なったものに変えなくてはならない。現状を変えようとしない経営戦略は、いくら目標を立てても意味がない。どこから始めるか、その起点を知ることは不可欠だ。最初の一歩がその後に続く各ステップの勢いを決めていくからだ。
市場を見間違うと、その時点で自分の立ち位置が現実の世界と離れてしまう。 そこから歩むステップは間違ったものとなり、正しい方向からどんどん乖離してしまう。
経済と技術がGDPと連動して成長していた時代の印刷事業の経営は容易であった。今日成功している印刷会社のリーダーの経営手腕は1980年代の経営者より格段上だろう。たくさんのドラゴンと戦い、難しい経営判断を毎日しているからだ。時代が良いときは、経営環境が良いので、全ての人が、自分が天才だと錯覚してしまう。 時代が悪いときは、本物の天才になる必要があるのだ。
By:Dr. Joe Webb
Published:2017年9月25日
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