決め手は富士フイルムブランドの「安心感」
同社が創業当時から一貫して追及してきたのは、トナーPOD機をデバイスとするオンデマンド印刷ビジネスだ。もちろん、オフセット印刷機を設備した経験もない。そんな同社が2022年3月、POD機4台のうち3台を廃棄し、Jet Pressに入れ替えたわけだ。富士フイルムでも、「オフセット印刷機を持たず、PODオンリーだった印刷会社がJet Pressを導入するのは希なケース」としている。したがって、導入の背景や理由、メリットなどもオフセット印刷会社のケースとは少し異なるようだ。伊達社長も「当社をベンチマークする会社、当社がベンチマークする会社はない。それだけニッチなビジネスモデルを構築している」と説明する。
Jet Press導入の背景について龍田取締役は、「創業から『菊四裁POD』という限られたカテゴリの中で仕事をしてきたが、コロナ禍を経て、顧客との関係性や仕事内容にも変化が見られ、次の一手としてサイズや品質面で印刷事業のランクを上げる必要性を感じた」と振り返った上で、「しかし、さすがにオフセットではない。そこで以前から注目していたJet Pressの魅力が私の中で高まっていった」と説明する。
伊達社長も「小ロット、多品種、短納期、バリアブルという顧客ニーズが鮮明な中、オフセット印刷に商機を感じられなかった」と経営的な意思決定について説明する。とは言え、同社にとって紙に印刷する手段にこだわりはない。「ただ、PODで顧客が懸念するのは加工適正とトナーのテカリ。それを考慮し、UV仕様はもともと候補に入れなかった」(龍田取締役)
そして、Jet Press採用の最終的な決め手となったのは「メンテナンス」「アフターサービス」に対する信頼だったと伊達社長。
「当社が導入するデバイスは『生産機』。ゆえにダウンタイムは最大の経営リスクだと考える。そこで日本企業である『富士フイルム』のサービス体制に安心感があった」
続けて伊達社長は、「B2デジタル機のモデルの選択肢は、それほど多くない。その中で、まずJet Pressの品質は申し分ない。広い色域を含め、『オフセットを凌駕する圧倒的な品質』という謳い文句に嘘偽りはない。しかも、10年以上にわたる富士フイルムブランド『Jet Press』の導入実績には大きな安心感がある」と評価する。
ブランディングとしてのJet Press
同社では、オフセット印刷の受注を中心に、外注比率が6割以上を占める。まず、この内製化がJet Pressのターゲットとなる。
「正直、高級分譲マンションのパンフレットはPODでは無理だ。これまでオフセット印刷の外注に出していたこのような仕事を内製化できる。『小ロット化しているが、品質は落としたくない』。このような仕事はJet Pressだと非常に受注しやすい」
一方、この内製化をきっかけに、受注構造の見直しも進めているという。
「利幅の少ない受注を見直し、高単価、高利益率の仕事に入れ替えを進めている。結果、非常に良好な循環を生んでいる」
受注ロットは500通し以下がほとんどを占める。PODオンリーだった同社にとって、紙の取り回しなどを含めたオフセットライクな操作性、あるいはPODより繊細な機構に最初は多少戸惑いもあったようだが、いまでは何ら問題なくオペレーションできているという。
一方、内製化と同時進行で進めているのがアート系印刷物へのアプローチだ。この分野では、ジークレーなどの技法もあるが、1枚あたりの単価が高額で、多くの生産には不向きだ。一部のトップアーティストではなく、まだまだ売り出し中のアーティストの作品集や図録などがターゲットだという。
「印刷通販を利用しているアーティストもいるようだが、紙を選ぶことができず、ロットやサイズでも制約がある。この市場にJet Pressはジャストフィットする。この分野にまったくネットワークはないが、SNSやホームページでのPR、あるいはインスタグラムから直接アーティストにアプローチするなど、少しずつ進めている。このアーティスティックな仕事への取り組みは、ある意味、当社のブランディングでもある」
新たな技術革新と万全のサービス体制に期待
伊達社長に、後加工の内製化について聞いてみたところ、「深江橋プリントセンターの周辺には、高い技術力を持ち、Jet Pressの加工適正も熟知するパートナー企業がある。そのお陰で我々は『刷り』に徹することができる」とし、今後も協力会社との連携を高めていく考えだ。
最終的に同社が目指すのは、価格競争力を失いつつある現在の「菊四裁POD」からの脱却だ。
「創業以来、この『菊四裁POD』による短納期対応のノウハウに強みを見出してきたわけだが、値崩れを起こしつつある現状において当社におけるビジネスとしての魅力は薄れつつある。一方で、今後の技術革新という意味ではオフセット印刷よりもデジタル印刷の方が期待できると私は考える。そうなると、今後はB2、B1といったサイズのデジタル印刷機への投資を考え、事業をシフトしていきたい。前述のように、それはトナーでもインクジェットでもかまわないが、生産機としての堅牢性と信頼できるアフターサービスが必須になる。その意味で、今後も富士フイルムによる新たな技術革新と万全のサービス体制を期待している」
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Jet Press導入の背景について龍田取締役は、「創業から『菊四裁POD』という限られたカテゴリの中で仕事をしてきたが、コロナ禍を経て、顧客との関係性や仕事内容にも変化が見られ、次の一手としてサイズや品質面で印刷事業のランクを上げる必要性を感じた」と振り返った上で、「しかし、さすがにオフセットではない。そこで以前から注目していたJet Pressの魅力が私の中で高まっていった」と説明する。
伊達社長も「小ロット、多品種、短納期、バリアブルという顧客ニーズが鮮明な中、オフセット印刷に商機を感じられなかった」と経営的な意思決定について説明する。とは言え、同社にとって紙に印刷する手段にこだわりはない。「ただ、PODで顧客が懸念するのは加工適正とトナーのテカリ。それを考慮し、UV仕様はもともと候補に入れなかった」(龍田取締役)
そして、Jet Press採用の最終的な決め手となったのは「メンテナンス」「アフターサービス」に対する信頼だったと伊達社長。
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「正直、高級分譲マンションのパンフレットはPODでは無理だ。これまでオフセット印刷の外注に出していたこのような仕事を内製化できる。『小ロット化しているが、品質は落としたくない』。このような仕事はJet Pressだと非常に受注しやすい」
一方、この内製化をきっかけに、受注構造の見直しも進めているという。
「利幅の少ない受注を見直し、高単価、高利益率の仕事に入れ替えを進めている。結果、非常に良好な循環を生んでいる」
受注ロットは500通し以下がほとんどを占める。PODオンリーだった同社にとって、紙の取り回しなどを含めたオフセットライクな操作性、あるいはPODより繊細な機構に最初は多少戸惑いもあったようだが、いまでは何ら問題なくオペレーションできているという。
一方、内製化と同時進行で進めているのがアート系印刷物へのアプローチだ。この分野では、ジークレーなどの技法もあるが、1枚あたりの単価が高額で、多くの生産には不向きだ。一部のトップアーティストではなく、まだまだ売り出し中のアーティストの作品集や図録などがターゲットだという。
「印刷通販を利用しているアーティストもいるようだが、紙を選ぶことができず、ロットやサイズでも制約がある。この市場にJet Pressはジャストフィットする。この分野にまったくネットワークはないが、SNSやホームページでのPR、あるいはインスタグラムから直接アーティストにアプローチするなど、少しずつ進めている。このアーティスティックな仕事への取り組みは、ある意味、当社のブランディングでもある」
新たな技術革新と万全のサービス体制に期待
伊達社長に、後加工の内製化について聞いてみたところ、「深江橋プリントセンターの周辺には、高い技術力を持ち、Jet Pressの加工適正も熟知するパートナー企業がある。そのお陰で我々は『刷り』に徹することができる」とし、今後も協力会社との連携を高めていく考えだ。
最終的に同社が目指すのは、価格競争力を失いつつある現在の「菊四裁POD」からの脱却だ。
「創業以来、この『菊四裁POD』による短納期対応のノウハウに強みを見出してきたわけだが、値崩れを起こしつつある現状において当社におけるビジネスとしての魅力は薄れつつある。一方で、今後の技術革新という意味ではオフセット印刷よりもデジタル印刷の方が期待できると私は考える。そうなると、今後はB2、B1といったサイズのデジタル印刷機への投資を考え、事業をシフトしていきたい。前述のように、それはトナーでもインクジェットでもかまわないが、生産機としての堅牢性と信頼できるアフターサービスが必須になる。その意味で、今後も富士フイルムによる新たな技術革新と万全のサービス体制を期待している」
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