PROSPER ULTRA 520プレス、「Hunkeler Innovationdays」で欧州初公開
「唯一無二」のポジション〜ULTRASTREAM技術を搭載
コダックジャパン 河原一郎氏に聞く
2023年4月4日製品・テクノロジースペシャリスト
ULTRASTREAMを採用した初のコダック製印刷機
PROSPER ULTRA 520プレスは、ULTRASTREAMコンティニュアスインクジェットテクノロジーを採用したデジタルインクジェット輪転機。600×1,800dpiの解像度、150メートル/分の生産速度を誇り、オフセットに匹敵する200線相当の印刷品質を提供。グロスコート紙にも高いインクカバレッジでの印刷を実現する。
45〜250g/平方メートルまでの標準的なオフセット印刷用紙に対応し、一般的にロールtoロールの印刷機が最も売れている520ミリの印刷幅で、2アップ両面印刷にも対応。各イメージングステーションは、5つのジェッティングモジュールで構成され、1分あたり2,000ページ以上のA4用紙を印刷できる。
「ULTRASTREAM」は、drupa2016で発表された技術。当初は、プリントヘッドとDFE、インクを自社開発し、そのコンポーネントをOEMベンダーに供給するというビジネスモデルからスタートしている。そのトップバッターがUTECO社のデジタルパッケージング印刷機「SAPPHIRE EVO Wプレス」で、同プレスは先行してすでに全世界で受注が開始されている。
そして、満を持してULTRASTREAMインクジェットテクノロジーを搭載した初のコダックオリジナルのデジタル印刷機「PROSPER ULTRA 520プレス」が登場した。
その特徴について河原氏は、「これまでのPROSPER6000/7000プレスは、頁ボリュームとスピードを追求してきたが、PROSPER ULTRA 520プレスは『高品質化』を明確に追求している。最大の違いは言うまでもなく第4世代のULTRASTREAMを搭載していることにあり、150メートル/分というスピードで200線相当の品質を担保できる画期的なマシンである」と説明する。
コンティニュアス技術の優位性
コダックのPROSPERシステムのコア技術となっているのがコンティニュアス方式のプリントヘッド技術。この技術を採用しているのはコダックのみで、他の世界的なインクジェットメーカーは、すべてドロップ・オン・デマンド(DOD)方式を採用している。
DOD方式の場合、ノズルからインクが常に出ているわけではなく、信号によってドロップを落とすため、使わないノズルは乾いてしまい「白抜け」という現象が起こる。これを避けるため、インク中にウェッティングエージェント(保湿剤)を混入させる必要があり、これが紙に塗布されると「乾きづらい」ということになる。
「この保湿剤によってDODはカラーリッチでインクカバレッジが大きい仕事を高速で処理することを苦手としている。さらに、それでも『ノズルのつまり』がある場合、ドキュメントとドキュメントの間に、すべてのノズルからインクを吐出するパージ処理という工程を加える。それでもダメならそのパージ処理の幅を広くする。つまり多くのインクを消費し、パージ処理部分をカットすることによる紙の無駄も発生する。これはあまり知られていない切実な問題だ」(河原氏)
これに対して、コンティニュアス方式は、均等に配列されたノズルから加圧し、コンティニュアスインクジェットノズルで常に一定した液流を形成。その液流が熱エネルギーの刺激を受けてインク液滴に分裂し、用紙方向あるいは再循環用のガターに向かって進むというもの。常にインクがノズルから吐出されているため、ノズルの乾きを想定した保湿剤も極めて少量であることから、インクコストが安価で、印刷物の乾燥性が高く、インクカバレッジが大きい仕事への対応、あるいは用紙多様性というメリットをもたらす。
このコンティニュアス方式でも、前世代のSTREAM技術と第4世代のULTRASTREAM技術とでは、ドロップを生成するテクノロジーは同様であるものの、制御方法が異なる。
STREAM技術は、大小のドロップを均一に落とし、小さいドロップを風で飛ばして再循環用に回収し、大きなドロップを落としてイメージを形成する。これに対し、第4世代となるULTRASTREAMはその逆。大きいドロップに電荷をチャージして抜き取り、小さいドロップを落としてイメージを形成する。この技術により、インクサイズはSTREAMのおよそ1/3になり、粒状性のある高解像度の品質を実現できるわけだ。
「Hunkeler Innovationdaysの会場でデモが行われていた『マガログ』のインクカバレッジは78%。これをグロッシーなコート紙に150メートル/分で印刷。これは唯一の存在であるコダックの尖った技術が成せる技である」(河原氏)
ただ、ここで1点付け加えておきたいことは、機械的にスピード、生産性を追求しているPROSPER ULTRA 520プレスにおいて、コダックはオフセット印刷のコート紙に直接印刷することは推奨していない。インクジェット塗工紙、あるいはプライマー処理をしたものになる。
求められる「キラーアプリケーション」
インクジェットプレスは、商業印刷の世界において「品質」が大きな壁となっていたことは否めない。ここに「風穴」をあけるのが「PROSPER ULTRA 520プレス」のポジショニングとなる。
さらに、これまでPROSPERが市場としてきたフォームや通知系の分野でカラーリッチコンテンツに対応できるようになる。印刷用紙が高騰する中で、「パーソナライズで頁数を減らしながら、効果を高める」という新たなアプリケーションもターゲットになる。河原氏も「インクカバレッジが高いカラーリッチな印刷物を、ほぼ枚葉オフセット印刷機と同等スピード、しかもバリアブルで印刷できる。これは唯一の存在」と強調する。
とはいえ、市場を喚起させるには、「輪転のデジタル印刷が、進化するオフセット印刷にはない付加価値を如何に創造できるかにかかっている」(河原氏)としている。つまり、そこには新たなアプリケーションが必要である。
前述の通り、PROSPER ULTRA 520プレスのポジションは「唯一無二」。その生産性ゆえに月間800万ページのボリュームがなければ採算は合わない。
「ここに『ハマるか、ハマらないか』。そういう意味で、他社メーカーとは違う土俵に立っている。『資材の高騰』『環境対応』などの経営課題に対し、低コストで高い販促力を発揮できる「キラーアプリケーション」を見つけ出すことも我々の仕事だと考えている」(河原氏)
BCP対策としてのデジタルプレス
コダック社のジム コンティネンザCEOは、「Hunkeler Innovationdays」の会場で、来場者にBCP対策としてのデジタル印刷機導入の必要性を語っていたという。その大要は次のようなものだ。
「プレートをどこまで安定供給できるか。エネルギーの高騰など、特殊要因はあるが、アルミ精製に電力を大量に消費することから中国では減産している。しかし、EVの軽量化のための使用など、アルミの需要は伸びており、需給バランスが崩れている。結果として激しいアルミの争奪戦が繰り広げられている。広義の意味での『BCP対策』として、オフセット印刷もできるし、そのバックアップとしてデジタル印刷もできる体制を整えていくことを真剣に考える時期にきている」
品質や生産性で、これまでの「壁」を破ったPROSPER ULTRA 520プレスの登場に対し、日本でも「とうとう、ここまできたか」と称讃の声があがっている。新たな市場を目指す上で、後は「アプリケーション次第」ということだろう。
現在、欧米に加え、日本がPROSPER ULTRA 520プレスのアーリーアダプターに位置付けられている。河原氏は「日本としては、ベータユーザーの状況をしっかりと確認してから訴求していく」との考えを示している。
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「ULTRASTREAM」は、drupa2016で発表された技術。当初は、プリントヘッドとDFE、インクを自社開発し、そのコンポーネントをOEMベンダーに供給するというビジネスモデルからスタートしている。そのトップバッターがUTECO社のデジタルパッケージング印刷機「SAPPHIRE EVO Wプレス」で、同プレスは先行してすでに全世界で受注が開始されている。
そして、満を持してULTRASTREAMインクジェットテクノロジーを搭載した初のコダックオリジナルのデジタル印刷機「PROSPER ULTRA 520プレス」が登場した。
その特徴について河原氏は、「これまでのPROSPER6000/7000プレスは、頁ボリュームとスピードを追求してきたが、PROSPER ULTRA 520プレスは『高品質化』を明確に追求している。最大の違いは言うまでもなく第4世代のULTRASTREAMを搭載していることにあり、150メートル/分というスピードで200線相当の品質を担保できる画期的なマシンである」と説明する。
コンティニュアス技術の優位性
コダックのPROSPERシステムのコア技術となっているのがコンティニュアス方式のプリントヘッド技術。この技術を採用しているのはコダックのみで、他の世界的なインクジェットメーカーは、すべてドロップ・オン・デマンド(DOD)方式を採用している。
DOD方式の場合、ノズルからインクが常に出ているわけではなく、信号によってドロップを落とすため、使わないノズルは乾いてしまい「白抜け」という現象が起こる。これを避けるため、インク中にウェッティングエージェント(保湿剤)を混入させる必要があり、これが紙に塗布されると「乾きづらい」ということになる。
「この保湿剤によってDODはカラーリッチでインクカバレッジが大きい仕事を高速で処理することを苦手としている。さらに、それでも『ノズルのつまり』がある場合、ドキュメントとドキュメントの間に、すべてのノズルからインクを吐出するパージ処理という工程を加える。それでもダメならそのパージ処理の幅を広くする。つまり多くのインクを消費し、パージ処理部分をカットすることによる紙の無駄も発生する。これはあまり知られていない切実な問題だ」(河原氏)
これに対して、コンティニュアス方式は、均等に配列されたノズルから加圧し、コンティニュアスインクジェットノズルで常に一定した液流を形成。その液流が熱エネルギーの刺激を受けてインク液滴に分裂し、用紙方向あるいは再循環用のガターに向かって進むというもの。常にインクがノズルから吐出されているため、ノズルの乾きを想定した保湿剤も極めて少量であることから、インクコストが安価で、印刷物の乾燥性が高く、インクカバレッジが大きい仕事への対応、あるいは用紙多様性というメリットをもたらす。
このコンティニュアス方式でも、前世代のSTREAM技術と第4世代のULTRASTREAM技術とでは、ドロップを生成するテクノロジーは同様であるものの、制御方法が異なる。
STREAM技術は、大小のドロップを均一に落とし、小さいドロップを風で飛ばして再循環用に回収し、大きなドロップを落としてイメージを形成する。これに対し、第4世代となるULTRASTREAMはその逆。大きいドロップに電荷をチャージして抜き取り、小さいドロップを落としてイメージを形成する。この技術により、インクサイズはSTREAMのおよそ1/3になり、粒状性のある高解像度の品質を実現できるわけだ。
「Hunkeler Innovationdaysの会場でデモが行われていた『マガログ』のインクカバレッジは78%。これをグロッシーなコート紙に150メートル/分で印刷。これは唯一の存在であるコダックの尖った技術が成せる技である」(河原氏)
ただ、ここで1点付け加えておきたいことは、機械的にスピード、生産性を追求しているPROSPER ULTRA 520プレスにおいて、コダックはオフセット印刷のコート紙に直接印刷することは推奨していない。インクジェット塗工紙、あるいはプライマー処理をしたものになる。
求められる「キラーアプリケーション」
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さらに、これまでPROSPERが市場としてきたフォームや通知系の分野でカラーリッチコンテンツに対応できるようになる。印刷用紙が高騰する中で、「パーソナライズで頁数を減らしながら、効果を高める」という新たなアプリケーションもターゲットになる。河原氏も「インクカバレッジが高いカラーリッチな印刷物を、ほぼ枚葉オフセット印刷機と同等スピード、しかもバリアブルで印刷できる。これは唯一の存在」と強調する。
とはいえ、市場を喚起させるには、「輪転のデジタル印刷が、進化するオフセット印刷にはない付加価値を如何に創造できるかにかかっている」(河原氏)としている。つまり、そこには新たなアプリケーションが必要である。
前述の通り、PROSPER ULTRA 520プレスのポジションは「唯一無二」。その生産性ゆえに月間800万ページのボリュームがなければ採算は合わない。
「ここに『ハマるか、ハマらないか』。そういう意味で、他社メーカーとは違う土俵に立っている。『資材の高騰』『環境対応』などの経営課題に対し、低コストで高い販促力を発揮できる「キラーアプリケーション」を見つけ出すことも我々の仕事だと考えている」(河原氏)
BCP対策としてのデジタルプレス
コダック社のジム コンティネンザCEOは、「Hunkeler Innovationdays」の会場で、来場者にBCP対策としてのデジタル印刷機導入の必要性を語っていたという。その大要は次のようなものだ。
「プレートをどこまで安定供給できるか。エネルギーの高騰など、特殊要因はあるが、アルミ精製に電力を大量に消費することから中国では減産している。しかし、EVの軽量化のための使用など、アルミの需要は伸びており、需給バランスが崩れている。結果として激しいアルミの争奪戦が繰り広げられている。広義の意味での『BCP対策』として、オフセット印刷もできるし、そのバックアップとしてデジタル印刷もできる体制を整えていくことを真剣に考える時期にきている」
品質や生産性で、これまでの「壁」を破ったPROSPER ULTRA 520プレスの登場に対し、日本でも「とうとう、ここまできたか」と称讃の声があがっている。新たな市場を目指す上で、後は「アプリケーション次第」ということだろう。
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